IFJ中国経済情報
3つの圧力の中の北京冬季五輪

IFJ理事 多摩大学客員教授 結城 隆

三つの圧力

2021年の中国経済は「前高後低」だった。通年でのGDP成長率は8.1%と主要国の中では最も高かったのもの、第四四半期は4%と、四半期ベースでみれば、天安門事件以来の低水準となった。

IFJ中国経済情報 2021年中国の四半期毎GDP伸び率の推移(前年同期比%、国家統計局)
2021年中国の四半期毎GDP伸び率の推移(前年同期比%、国家統計局)

昨年の12月8日から10日かけて北京では中央経済工作会議が開催された。これは、党・政府が翌年の経済政策運営の基本方針を決めるために毎年12月に開催される。主催するのは習近平総書記・軍事員会書記・国家主席である。前年の会議は、コロナ禍を制圧し、経済をV字回復に導いた勝利の雰囲気に満ちていたが、昨年12月は、それが一一変した。来年の経済運営において何よりも優先されるのが「安定」であるとされ、それを揺るがしかねない3つの圧力が中国経済にのしかかっているという認識が示された。①需要の減退、②供給への打撃(サプライショック)、そして③先行きの不透明感である(i)。従来にない厳しい認識と言える。1月に国家統計局が公表した2021年のGDP成長率は、こうした党・政府中央の認識を裏打ちした格好となった。

経済の減速は今年に入っても続いている。1月の製造業PMI(購買担当者指数)は50.1と「拡大」基調を示す50ギリギリの水準となった(ii)。製造業PMIは、昨年9~10月の電力危機発生時に50を割り込んだが、これが収まるにつれ50台を回復したものの、いつ、これを割り込んでもおかしくない水準に低迷している。年頭にあたって、多くの現地エコノミストが、今年の経済動向についてコメントを発しているが、いずれも上述の「三つの圧力」の解消には一定の時間を要するとの見方をしているものの、「前低後高」として、今年後半からの回復を見込んでいるようだ。

IFJ中国経済情報  製造業購買担当者指数の推移(国家統計局)
製造業購買担当者指数の推移(国家統計局)

春節前、騰訊会議システムを使って北京の弁護士と意見交換する機会を得た。破産事案を専門とするこの弁護士によれば、昨年来、中小企業の倒産が激増しており、日系企業の中にも経営悪化により、撤退を検討する企業も出てきているとのことだった。一昨年の新型コロナ流行時、中小零細企業の利益は平均30%も低下したという。一昨年後半から今年前半にかけて収益は上向いたものの、その後の景気減速によって、倒産が一気に拡大したという。多くが資金繰り倒産ということだ。党・政府は雇用の80%を占める中小零細企業の支援に躍起になっているが、中小零細企業の平均寿命は4年弱ともいわれており、担保余力もほとんどないサービス業が中心である。銀行借り入れも容易ではない。このように見ると、中国の景気の実態は、数字に表れている以上に厳しいのではないかと思う。

「三つの圧力」の中で、最も注意を要するのは、先行きの不透明感ではないかと思う。党・政府が堅持している「ゼロ・コロナ政策」の出口が見えないことが、視界を大きく低下させている。ゼロ・コロナ政策は、感染者の早期発見、早期通報、大量のPCR検査、そして感染者発生区域の厳格なロックダウンの4本柱から成るが、昨年の深圳、南京、西安、咸陽といった大都市での一部ないし全部でロックダウン措置が取られた。北京でもオミクロン株の感染者が発生した豊台区が封鎖された。2月1日から始まった春節では、2億人をこえる農民工の帰郷が厳しく制限されている。北京に住む筆者の友人も、今年の帰省は諦めたという。2月4日に冬季五輪の開会式を迎える北京とその周辺は、厳戒態勢が敷かれている。これでは消費が減退するのはあたりまえだ。

ゼロ・コロナ政策が堅持されている理由は3つある。まず、中国の医療体制が極めて貧弱であることだ。一定人口あたりの医師、看護師、それにICU施設は、メキシコやタイ並みの水準である。地方都市や農村部の医療体制はお寒い限りである。つぎに、重症化しやすい高齢者の数が多い。2020年末時点の65歳以上の人口は約2億人、全人口の13.5%を占める。最後に、世界に先駆けて国産ワクチンを開発、接種したものの、その効果はmRNAタイプのワクチンに比べ劣後している上、オミクロン株への有効性はかなり低いと言われていることだ(iii)。江蘇省蘇州市の苏州艾博生物科技が現在mRNAタイプのワクチンの臨床試験を行っているが、使用時期はまだわかっていない。

不動産不況?

需要の減退をもたらしているもう一つの要因が、不動産市況の冷え込みである。不動産業界は、鉄鋼、セメントといった建設資材、家具・什器・家電といった内装関連、それに仲介業や管理業務といったサービス部門も含めれば、GDPの29%を占めるといわれる。銀行貸出の41%、都市部の家計資産の78%が不動産ともいわれる。

昨年6月に発生した不動産開発ビッグ5の一角恒大集団の債務不履行問題と、それと相前後して起こった大手不動産開発業者の債務不履行により、新規の不動産開発投資は大きく落ち込んだ。新規開発投資は昨年7月以来前年割れの状態が続いている。恒大集団の債務残高は、企業としては世界最大規模の約2兆元に上ると見られる。これは中国のGDPの2%に相当する。外債発行残高も1千億元以上あると見られ、金融のシステミックリスクの発生を懸念する向きもあるようだ。不動産開発業界は、2020年7月に政府が通達した「三条紅線」という財務指標に基づく借り入れ規制により、かなりの企業が厳しい資金繰りに直面している。大手不動産開発業者もその例外ではなく、恒大集団以外にも華夏幸福、佳兆業集団、当代置業、陽光城、中国奥園、花样年といった名だたる大手企業も、債務返済の遅れを発生させている。

不動産開発新規着工面積の推移(前年同期比%、Wind)
不動産開発新規着工面積の推移(前年同期比%、Wind)

「借金大王」の恒大集団の場合、今年返済遅延に陥ったのは利払いだが、今年の3月からは社債の元本の満期が続々と到来する。このため、恒大集団に限らず、多くの不動産開発業は、手持ちの物件の処分を加速し、資金繰りに充当しようとしている。深圳市では、マンション購入者にベンツかテスラをおまけにつけるというプロモーションまで始めた開発業者も出てきているようだし(iv)、恒大集団も重慶市などでは3割引きでの販売を開始している。しかし、散発的なコロナ感染者の発生による行動制限により物件の下見にも行きにくくなったことに加え、購入者の多くが模様眺めのスタンスを取るようになっていること、住宅ローン借り入れに関わる規制もまだ続いているため、値下げしたからといって売れるような状況にはないようだ。しかも、全国21都市では、政府が不動産価格の暴落を防ぐため、値下げ状況を厳しく監視するようになっているので、値下げしたくてもできないという状況も生まれている。江蘇省鎮江市は、同じ物件の場合、前期比の販売価格の95%までの値下げしか認めないという指導を昨年11月から開始している。このいわゆる「限跌令」を出しているのは、物件の在庫が多い三四線都市が多い(v)。このため、住宅販売の掻き入れ時といわれる「金九銀十」の販売は例年の半分以下という散々な結果となった(vi)。不動産開発売上上位百社の販売金額の伸びもつるべ落としで減少している(vii)。1-10月の累計売上が前年同期を上回った企業は、売上1千億元以上の大手32社中、6社に過ぎない。

中国 住宅販売面積の推移
住宅販売面積の推移

しかし、住宅価格の値下がりは止まらないようだ。今年1月に公表された全国100都市の新築住宅・中古住宅の価格を見ると、新築住宅ではほぼ半分の46市で価格が前年同月割れとなっており、中古住宅の場合65市が価格を下げている(viii)。大都市の価格は弱含みながらも、上昇傾向を維持しているが、三・四線都市の価格は下落幅が大きい。

中国 全国百都市の新築住宅・中古住宅価格下落数(中指研究院)
全国百都市の新築住宅・中古住宅価格下落数(中指研究院)

住宅需要の低下や、開発業者の資金繰り難に伴う新規着工面積の減少は、建設資材メーカーや地方政府の財政にも大きな影響を与えている。鉄鋼、セメントの生産量は昨年半ば以降、前年割れが続いている。地方政府にとって、住宅向け開発用地の使用権販売は、極めて重要な財源だが、昨年の土地使用権売却面積は20.5億平米で、前年比22%もの減少となった([i])。財政部によれば、昨年の土地使用権売却額は8.7兆元にのぼったが、対前年伸び率は3.5%と歴史的な低水準にとどまったという([ii])。これは全国レベルの数値であり、地方によって大きなばらつきがある。

中国 鋼材の一日当たり平均生産量
鋼材の一日当たり平均生産量
中国 セメント一日当たり平均生産量
セメント一日当たり平均生産量

極端な財政収入減に陥った地方も出てきている。河北省霸州市は傘下に13の鎮を擁する人口74万人の小規模な都市だが、昨年10月から12月にかけ、市内の企業に対し、些細な瑕疵を理由に猛烈な勢いで罰金を課した。同市が昨年1-9月の間に徴収した罰金は592万元だったが、10-12月は、その11倍に及ぶ6,718万元もの罰金が徴収されたという。同市の年間予算収入27億元の3%に相当する金額だ。あまりの苛烈な罰金徴収に根を上げた地元企業が、国務院弁公庁監査室に通報し、事が明るみに出た。霸州市は、かつては鉄鋼業が盛んだったが、鉄鋼業の過剰生産設備の削減により多くの工場が閉鎖された、これに加え、不動産価格の低下と販売の減少、土地使用権売却収入の減少が追い打ちをかけた。背に腹は代えられなくなった市政府は、罰金徴収を増やすことにより財政収入の減少を補おうとしたようだ(xi)。

2017年来、「房住不炒」のスローガンを掲げ、不動産開発業界の過剰開発、過剰債務、過剰在庫問題に取り組んできた党・政府も、さすがに景気に与える影響を無視できなくなったようだ。1月20日、人民銀行は長期貸出金利を21カ月振りに0.05%引き下げた。これに伴い、住宅ローン金利も0.05~0.08%引下げされた。また、審査期間も、平均50日から一週間程度短くなっている(xii)。さらに、都市によっては、住宅購入時の頭金比率を引き下げたり、頭金の貸付限度額を引き上げる動きもみられるようになっている。また、「三条紅線」をクリアした不動産開発業者に対しては、社債の借換(実際は繰り延べ)も認められるようになってきた。また、海外の債権者が、債務不履行に陥った開発業者の資産を破産手続きなしで差し押さえるといったことも黙認されるようになっている。この1月、恒大集団が300億元を投じて開発した上海近郊の「ベニス」事業を、投資会社オーク・ツリーが差押に踏み切ったのがその好例といえる(xiii)。

不動産開発上場企業97社の「三条紅線」クリア状況
不動産開発上場企業97社の「三条紅線」クリア状況(赤:三条すべて未達、橙:一条のみクリア、黄:二条クリア、緑:すべてクリア、CRICより)

不動産開発業界の財務状況は、中期的に見れば、改善しつつある。開発業者上場97社についてみると、「三条紅線」をクリアできていない開発業者は、2020年から21年にかけて半減する一方、すべてクリアした業者は約3倍に増加している。また、中小の開発業者の淘汰も進んでいるようだ。中国不動産協会によれば、不動産開発業として登記した会社は2021年末で11.2万社にのぼるが、昨年1年間で債務不履行などにより登記抹消された社数は5,600社に上るという(xiv)。不動産市況は、まだまだ予断を許さない厳しい状況にあることは間違いないが、一方で、いまこそ「買い」だという動きも成都などではみられるようになっている(xv)。党・政府は、こうしたブリッシュな動きを警戒しつつ、規制の手をすこしずつ緩め、ソフトランディングを図ってゆくのではないか。

「共同富裕」と「双減」

不動産開発業界だけではなく、中国の経済・産業が目に見える形で地殻変動を起こしたのが2021年であると言える。この変動は大きな痛みを伴いつつ、経済成長の主役交代をもたらしているともいえる。

今年の1月3日、英国のFinancial Timesが、2021年の株価時価総額変動ランキングを発表した。アップルの株価時価総額が3兆ドルをこえたことは、大きな話題となったが、中国企業の変動も激しいものだった。株価時価総額が上昇した企業100社にランクインした中国企業は12社に上るが、BYD、CATL、NIOといったEV、電池メーカーの躍進が著しい。その一方で、時価総額を最も減らしたのがアリババで、その金額は2,740億ドルにのぼる。時価総額減少幅ワースト100社にランクインした中国企業は32社に上るが、その殆どがEコマースなどのITプラットフォーマー、不動産開発、金融業となっている(xvi)。ニュヨーク株式市場に上場している阿里巴巴、騰訊、美団、快手4社の株価時価総額は、昨年1年で1兆ドル近くも縮減している

阿里巴巴、騰訊、美団、快手の株価時価総額合計推移(Bloomberg)
阿里巴巴、騰訊、美団、快手の株価時価総額合計推移

一世を風靡したBAT(百度、阿里巴巴、騰訊)や、これを猛追することで知られた新興のTMD(今日頭条、美団、滴滴)、それに加え、急拡大した塾産業は、党・政府の「共同富裕」・「双減」政策のもとで、成長の勢いを大きく削がれてしまった。党・政府は「共同富裕」実現のための一手として、巨大テック企業の独占問題をやり玉に挙げた。阿里巴巴は、ネット通販市場の50%近いシェアを持つが、決済に使えるのは同社のアリペイだけであり、百度の微信支付は使えないことや、ライバルの通販サイトに出品した店舗は自社のサイトに出店させないといった運営方針が独禁法に抵触したとして、昨年27億ドルもの罰金を課された。フードデリバリーサービス業界トップの美団は、配送員の劣悪な待遇問題を指摘された。滴滴は、政府の制止を振り切ってニューヨークで株式上場したものの、データ管理の不備や、契約ドライバーの過半がタクシーのライセンスを保有していないことを理由に、新規の顧客獲得を停止するという処分を受けた。ネットゲームトップの騰訊は、児童・生徒のネットゲーム使用を週末合計3時間に制限するとの規制により、当該事業の縮小を余儀なくされた。

滴滴の四半期決算推移
滴滴の四半期決算推移(Financial Times)

2021年、市場監督管理総局が摘発した独禁法違反事案は前年の4倍近い118件に上ったが、その殆どがBAT、TMDである([i])。ちなみに、独禁法違反の摘発件数は2018年までは年間10件前後だった。こうした厳しい取り締まりは、業績にも大きな影響を与えている。滴滴の場合、新規顧客の獲得停止処分を受けて以来、減収減益が続き、赤字幅を大きく拡大させている。同社の昨年1-9月の累計赤字額は76億ドルにのぼるといわれる(xviii)。

また、新たなネット通販のビジネスモデルとして脚光を浴びた「社区団購」(生鮮食品などの団地まとめ買い)が、価格操作などの疑いにより最大手で阿里巴巴傘下の十荟团が、昨年6月市場監督管理局の摘発を受けた後、本年1月、倒産に追い込まれた。同社は、阿里巴巴を始め投資ファンドから12億ドルにのぼる融資を受け、急速に事業を拡張し、昨年末時点で、全国2千余りの都市に5千万人を超える会員顧客を擁するまでになっていたが、摘発以降、売上の伸び悩みに加え、資金繰りが底をつき、仕入れ先への支払いのみならず昨年10月以降は給与の支払いにも事欠くようになってしまったという(xix)。

「校内」と「校外」双方の児童・生徒の学習負担と家計の教育費負担を減らし、結果的に少子高齢化の進行を遅らせる目的で昨年6月に発出された「双減」政策は、営利目的の教育産業を実質的に禁止するものだったが、これにより、最大手の新東方の損益は赤字に転落し、従業員および教員6万人の解雇に追い込まれた。同社の昨年下半期の決算は、8億ドルの赤字となった。前年同期の2.3億ドルの黒字から一転して大幅な赤字決算である(xx)。同社の株価は、20ドルから直近で1.4ドルまで暴落し、ほぼ紙くず同然の状態となっている。

新東方の株価推移(Financial Times)
新東方の株価推移(Financial Times)

こうした「共同富裕」・「双減」政策が取られるようになった理由は3つあると思う。まず、規制強化の対象となった企業は、いずれもニューヨークか香港株式市場に上場しており、オーナーやその家族は巨額の上場益を得た。また、こうした利益を使って、株式交換などの手法により、多くのスタートアップ企業を買収、成功した企業を新たに上場するといった「錬金術」により、巨額の富を蓄積した。これにより、貧富の格差は増々拡大しかねない。次に、これら企業は、従来、中国にはなかったサービスや利便性を消費者に提供することにより急成長してきたが、先行者利得を得た企業は、巨大な市場シェアを背景に、価格やサービスの決定権を握るようになったため、利便性が逆に不便や不利益を起こしかねない事態が生まれつつあった。最後に、巨大化したこれらテック企業が、「法治」を超える存在となる懸念が生まれてきた。GAFAのように、グローバル化を推し進め、政府規制の埒外で活動する企業が生まれることは決して好ましいことではなく、アメリカやEU各国政府は、GAFAに対する規制強化を図っているという事情と共通している。

中国のベンチャーキャピタルの業種別投資(10億元、Financial Times)
中国のベンチャーキャピタルの業種別投資(10億元、Financial Times)

一方、中国の巨大テック企業が、2015年から開始された「三つの過剰(過剰生産、過剰在庫、過剰債務)」撲滅政策の実施に伴う重厚長大産業の縮減と、そこからあふれ出た雇用の受け皿になったことは否めない。配車アプリサービスの滴滴も、これら数百万人の雇用を吸収した。1千万人を超えると言われるフードデリバリーサービスの配送員も、農民工をはじめとする若年労働力の雇用の重要な受け皿となっている。テック企業に代わる雇用の受け皿をどうするのかが、重要な課題になっている。

これに代わる雇用の受け皿として期待されているのが、EVやこれに関わるIOT、あるいはAI、メタヴァースといった新たなテクノロジー産業、それにヘルスケアや介護産業などである。ただ、これらの産業は、まだ、雇用吸収力のある「生態系」を形成するにはいたっていないように思える。ただ、投資家は、この流れを読んでいるようだ。ベンチャー企業に対する投資の内容を見ると、ITやソフトウエアから製造業へのシフトが進んでいる。党・政府は、巨大テック企業の手綱を抑えつつ、経済成長のエンジンを替えようとしている。

北京冬季五輪

「中国がメダルをいくつ獲得するかには関心がない」と習近平国家主席は、IOCバッハ会長との会談の席上喝破した。それよりも将来に向けてのモチベーションと活力をもたらすことが重要とのことだ。

確かに、北京冬季五輪は、今後の五輪の在り方に一石を投じる内容となっている。まず、大会開催予算が15.6億ドルと2002年のソルトレーク冬季五輪をも大きく下回るレベルになっている。2008年の夏季五輪開催のために建てられた施設を再活用し、新たな施設はジャンプ台やボブスレーといった会場の建設にとどめられている。次に、環境に配慮した運営が行われる。降雪・造雪設備に使用される水は雨水を浄化したものであり、北京とその校外地区の深刻な水不足に配慮したものだ。また、会場で使用される電力は、太陽光発電など再生可能エネルギーで賄われる。最後に、会場で使用されるのはデジタル人民元である。このような運営は、今後の五輪の在り方に対し、一石を投じるものだと言える。

歴代五輪の費用(億ドル、Forbes)
歴代五輪の費用(億ドル、Forbes)

中国経済が厳しい状況にあるとはいえ、GDP成長率は、中国に次いで経済をコロナ禍前の水準に戻したアメリカを上回る。世銀によれば、今年の中国の成長率は、ゼロ・コロナ政策の出口戦略次第とし、5.1%という低めの予想である。また、コロナ禍の中、大規模な財政出動を行った欧米、とくにアメリカは今年3月以降金融引き締め策に転じる気配が濃厚だ。そうした中、中国は、不動産開発業界の債務問題や、巨大テック企業の業績の息切れ、さらにはこれらに起因する雇用問題などから、緩やかな金融緩和策に転じつつある。これは、昨年来続いてきた元高傾向を一服させ、輸出拡大につながる可能性がある。

今年の経済成長率予測(GDP成長率%、世界銀行)
今年の経済成長率予測(GDP成長率%、世界銀行)

惜しむらくは、ゼロ・コロナ政策の出口が見えず、消費に火が付かないことだ。しかし、党・政府も永遠にこの政策を続けるわけにはいかない。北京の知人によれば、全人代終了後の4月以降、感染状況によっては、移動制限や入国制限措置が緩和される可能性があるとのことだ。

コロナ禍の中、その対策を巡って、欧米や日本などでは自国政府に対する不信や不満が鬱積している。その一方、中国は、宿痾ともいえる不動産業界の問題に取り組み、ソフトランディングを図りつつある。また、欧米諸国政府が手を拱いている巨大テック企業に対する規制をいち早く実施しているのも中国である。「穏中求進」(安定を維持しながら進歩を求める)は痛みを伴いながらも着実に実施されている。習近平国家主席が、北京冬季五輪で訴えたいのは、こうした中国の世界に先駆けた試みではないだろうか。

以上


i 中央经济工作会议:经济发展面临需求收缩、供给冲击、预期转弱三重压力,强调“稳字当头、稳中求进” 2021-12-10每日经济新闻
ii 2022年1月中国采购经理指数运行情况2022-01-30 国家统计局
iii Closed China: why Xi Jinping is sticking with his zero-Covid policy February 1, 2022, FT
iv 深圳也有“奔驰/特斯拉买房就送”,临近年底,开发商的焦虑症越来越重2021年11月17日每日经济新闻
v 全国已经有21城发布了“限跌令” 绝大多数都是三四五线城市 2021-11-14第一财经
vi 多城楼市“金九”遇冷:中秋小长假销量大跌七成,短期内或延续降温态势2021-09-23每日经济新闻
vii 前10月“碧万融保”合计销售额超2万亿元,超八成百强房企10月业绩同比下降2021-11-01每日经济新闻
viii 1月百城房价环比继续下跌,多地出台扶持政策稳楼市2022-02-01来源:澎湃新闻
ix 2021年中国房地产企业拿地TOP100 2022-01-01凤凰网房产
x 财政部:去年土地出让收入87051亿元,同比增长3.5%2022-01-29来源:澎湃新闻
xi 风声丨60多天突击罚款6700万 河北霸州为何如此霸道2021年12月21日来源:风声
xii 5年期LPR21个月来首次下调,百万房贷每月少还30元2022-01-20来源:澎湃新闻
xiii Oaktree takes control of sprawling Evergrande building project near Shanghai January 28, 2022, FT
xiv 2021房地产行业10大关键词 2021-12-30 12:31:10来源:中房网
xv 超1500人“疯抢”500套房!成都又现一房难求?2022-02-01证券时报
xvi Prospering in the pandemic: winners and losers of the Covid era January 3, 2022, FT
xvii “反垄断”之年:118个行政处罚案件到底“反”了什么?2022-01-04来源:澎湃新闻
xviii Didi struggles with Hong Kong IPO challenges January 12, 2022, FT
xix 又一个独角兽悄然倒下?多地春节前无货卖,充值话费被退回2022-01-29每日经济新闻
xx 新东方:预期6个月净亏8亿至9亿美元2022-01-21中国新闻网